本が読み手にとどくまで

つい先日、『善き書店員』という本が、ふと目に入りました(木村俊介著/ミシマ社、2013年)

手に取って見てみると、普通なら帯にあるような謳い文句が、表紙にでかでかと書かれています。

6人の書店員にじっくり聞き、探った。この時代において「善く」働くとはなにか?500人超のインタビューをしてきた著者が見つけた、普通に働く人たちが大事にする「善さ」──。「肉声が聞こえてくる」、新たなノンフィクションの誕生。

仕事についてのインタビューものといえば、忘れがたい本があります。スタッズ・ターケルの『仕事(ワーキング)!』です。133人にひたすらインタビューしている、とにかくすさまじいボリュームの本で、115もの異なる職業に触れることができてしまえます。

著名人とは言えないような、ごく普通の職業に就いている人びとのインタビューには、なかなか侮れない面白さがあります。

『善き書店員』もインタビューもので、タイトルにあるとおり書店員を対象にしており、現役の働き手6名(2012〜13年当時)に、じっくり仕事について聞き取られている、ストイックなノンフィクションでした。

著者の木村俊介さんは、「インタビュアー」という、あまりお目にかかれない肩書きをわざわざ名乗られていて、インタビューという手法に込める信念のようなものが感じられます(本のなかの最終章で、その思いの丈をご自身の言葉で熱心に語られていました)

本屋さんの仕事については知らないことばかりなので、どのインタビューにも惹きつけられました。漫画やら文芸やらビジネス書やらといったジャンルごとに、それぞれの棚を担当する人がいたりすることも知らなかったし、お店の客層によって、どういう本をそろえて、どういう見せ方で本を並べているのか、といったことも考えてみたことすらなかったので、6名それぞれのお話しを聞くことで、本というものを取りあつかう小売の現場についてもなんとなく実感できるようになって、より身近に感じるようになりました。

それに、6名それぞれの書店員としての経験もさることながら、話す言葉のなかから感じられる仕事への向き合い方にも、読んでいて心惹かれました。

職場の仲間との関わり方とか、業務をこなすための技術的なことか、お店の経営のこととか、お客を迎える場としての書店のこととか、一口に仕事についてのインタビューといっても、いろいろな切り口で語ることができるし、どんな事柄について多くを語るのかも一様ではないし、そこから読み手が受ける印象もまた、一様ではないのだろうと思います。

こういった、仕事について語る上でのいろいろな視点は、どんな職業にもある程度あてはまることだから、読み手には、どんな職業に携わっている人であれ、気付かされたり共感したりするところがあるかもしれません。なので、カバー表紙で謳われている、

この時代において「善く」働くとはなにか?

と、働くこと全般にテーマを広げた問いかけは、あながち誇張というわけでもなく、読み手次第ではあるけども、他者を見ることから自分を見つめなおしたり、仕事をするということについての本質的な何かを知る手がかりになったりするのかもしれない。

デジタルのとどけ方

それはそうと、書店のことは今の得体社とは結びつかないことではあります。というのも、得体社には貯えがなくて、お金のかからない電子書籍のみで出版社をやろうとしているわけです。予算ができるようになったら、紙の本もつくりたいけども、ぜんぜん売れてない現状をかんがみると、リアルな書店へ営業に行ける日なんて来そうにない。

そうならないためには、つまり電子書籍でもそこそこ本を売っていくには、ネット上の世界において、興味を持ってくれそうな人たちに得体社の本を見つけてもらわないとならないし、読んでみたいと思ってもらえるように工夫しなければいけません(もちろん、読み手に満足してもらえるような本をつくるのが、何より最初に心がけるべき前提ですが)

過去を振り返ってみると、マーケティングとかいった売るための努力について、生まれてこの方まともに考えたためしがありません。これは、おいおい学ばなければいけない問題、というよりは、すぐにでも真剣に取り組まなければならない課題なのでは? と、今さらながら思うようになりました。

今のところは自分自身が著者という身で、気ままにやっているわけですが、もし人の著作をあずかる立場になろうものなら、当然のことながら、しっかり売らなきゃ著者に申しわけが立ちません。

それに、そもそも出版とはメディアの一つなので、もし誰にも届かないものを発信しているのだとしたら、それは電子書籍をやみくもに発行しているにすぎず、控え目に言ってもメディアとは呼べそうにありません。だから、どのようなジャンルの本をつくるにせよ、それをなるべく多くの人に届くよう努力しなければ、情報なり物語なりを伝えるメディアとして、存在意義にかかわる大切なところを見落としていることになります。

紙の本にしろ、電子書籍にしろ、知ってもらって読んでもらわないことには始まらない。けれど、おびただしい数の本が日夜刊行されていることをふまえると、取っかかりの「知ってもらう」という目標には、おいそれとはたどり着けそうにないし、さらに買ってもらえるようになるには、何をどうすればいいのやら、何からやり始めればいいのやら、さっぱりです。

でも、その気になれば、今すぐにでもできることがあるのでは? と思い直して、ひとりで細々とこなせそうな活動の一つとして、ブログをはじめることを考えました。

そんなわけで、ゆくゆくはまともな出版社になるかもしれない得体社の歩みを、ブログに記録していこうと思います。というか、今のところ、何か発信できそうなことは、それくらいしかないというのが本当のところです……

島口知也